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聴潮閣

写真/石松健男

目を奪う贅の極み

 別府は「ハイカラさんの街」といわれる。観光のため全国から多くの人がやってくる開かれた土地柄のせいでもあるが、とりわけ大正末期から昭和初期にかけては、国際的な温泉都市を目指して、市民たちは意気盛んだった。そのなかでハイカラの気風が育った。
 それはいろいろな面で今日に残されている。例えば建物にもハイカラぶりをうかがうことができる。特にその当時には、いわゆる「近代化建築遺産」と呼ばれるモダンな建物が多く生まれた。
 幸いにもそれらは戦災に遭うこともなかった。第二次世界大戦で大分市が焼け野原となっても、別府の街には一発の爆弾も落とされなかった。おかげで、街を歩いているとあちこちで近代化建築に出会う。公共施設や住宅、別荘、保養所をはじめ温泉や旅館、病院あるいは社寺や教会などなど。
 そのなかで代表的な建築の一つが青山町にある「聴潮閣」。潮騒を聴くの名前でも分かるように、元は浜脇の海辺に建てられていたが、のちに現在地に移され、聴潮閣高橋記念館となっている。 建てられたのは1929(昭和4)年。建築主は別府商工会議所の初代会頭で、建築の翌年には代議士ともなった大分県政財界を代表する大物・高橋欣哉。住居と迎賓館を兼ねて造られた和風の木造二階建て入り母屋。現在地に解体移築されたのは平成の始まった1989(平成元)年。目的は保存だった。
 外観はしっとりとした和風だが、中に入るとモダンさに驚かされる。アールデコ風の応接間などには目を奪われよう。高級木材をふんだんに使っての贅の極みである。 2007(平成19)年3月までは誰でも見学でき、それ以降は美術館として運営してきたが、2015年末に閉館された。近代化遺産が次第に姿を消しつつある別府。観光別府の宝物である多くの遺産の保存運動を市域全体に広げてほしいものである。

聴潮閣母屋(中庭から撮影)と、1階応接間(写真上)。