写真/竹内康訓
ハナショウブは雨の季節がよく似合う。6月には、奥別府の神楽女湖で約30万本が花開き、妍を競う。今では九州屈指の名所として、全国的にも広く知られるようになった。
鶴見岳の登山口である九州横断道路の鳥居から南東へ約2.5キロ、志高湖を経て入る。標高540メートル、周囲1キロほど。そのほとりの湿地に「花菖蒲園」があり、約80種、1万5千株が植え込まれ、八つ橋など回遊の遊歩道や休憩所もある。
ハナショウブは野生種であるノハナショウブの改良種。古典的園芸種と言われるほど昔から知られ、大きく分けて江戸系、伊勢系、肥後系の3系統に分類され、江戸時代末期には200種を超えた。現在では花の色に絞りや覆輪など形を組み合わせ、数千種もあるとされている。
ところで「いずれがアヤメ、カキツバタ」の言葉がある。同じアヤメ科の花で、優劣が付け難いことから、区別が難しいの意味で使われているが、同じ「アイリス」のハナショウブが加わるとますます分かりにくくなるらしい。しかし、ハナショウブは花の色が多く、紫だけでなく、青、黄、淡紅、白などが見られ、姿を加えて比較すると一目瞭然という。なお、端午の節句の菖蒲はサトイモ科である。
湖畔では由布岳、鶴見岳などが借景となり、周囲には四季折々に花が多いが、ハナショウブを観賞するには早朝がお薦めとか。朝霧にぬれ、花が露を置いている時が最高とされる。もちろん、梅雨の雨も良い。
神楽女湖の名前は、平安時代に鶴見岳社に歌舞で奉仕する女性たちが付近に居を構えていたからと伝えられるが、ハナショウブは歌舞女に劣らぬあでやかさと言えそう。志高湖とは約1キロの遊歩道で結ばれ、小鹿山の登山口でもあり、観光リンゴ園、少年自然の家なども近い。