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白水ダム

写真/竹内康訓

心癒やす泡模様

 春は桜、夏は森の緑や積乱雲、秋は紅葉、そして冬は雪。ダムの湖面は四季おりおりに自然の色を映す。だが、変わらないのは堰堤を滑り台とする水の、白く美しい泡の模様。それでも、水量によって微妙に変化して飽きさせないし、訪れる人の心を癒やす。
 ここは竹田市次倉と同市荻町柏原の間の大野川に造られた「日本一美しいダム」とされる白水ダム。正式には白水溜池・堰堤。大分、いや九州、日本を代表する農業近代化遺産として、1999(平成11)年に国指定の重要文化財となった。
 ダムというと、普通に思い出すのがコンクリートの巨大なアーチ式ダム。それに比べ、白水ダムは大きなものではない。堤防の高さ14メートル、長さ90メートル弱という石積み主体の重力式ダムである。だが、その美しさと工法は比類ない。
 巨大ダムには現代土木技術が結集され、構造美を見せているかもしれないが、白水ダムは自然の中にさりげなく置かれ、自然への優しさを第一に考えた芸術作品そのものである。
 農業水利のためにダムが着工されたのは1934(昭和9)年。1938(昭和13)年に完成した。これによって竹田地方は多大の恩恵に浴した。だが、現場の地盤は弱かった。
 そこで生まれたのが、自然に配慮した独特の工法。設計者は大分県の技師だった小野安夫氏。それに水利関係者の努力、地元の凝灰岩を加工する石工たちの知恵と技が加わった。
 例えば、堰堤から流す水が下流の地盤に影響を与えないよう、堤防に向かって右は階段式、左は微妙な曲線で水を90度回す。見事なデザインは水を子供のようにあやし、無理なく手なずけ、流速を落とす。中央部はまさに幅広い滑り台。水のカーテン。流水美の極致ではないかと、あらためて思わせられる。

自然に配慮し独自の工法で建設された竹田市の白水ダム。