写真/竹内康訓
大地に鋭く刻み込まれた巨大な溝。長さ約12キロ、深さ20メートルから60メートル、幅は広いところでさえ8メートル程度、狭いところでは4メートルぐらいしかない。そこに多量の水が流れ、早い瀬となり、深い淵を見せる。県名勝・由布川峡谷である。
由布川は由布岳と鶴見岳の間、猪の瀬戸の湿原や城島高原付近を水源とする。その後、別府市から由布市挾間町に入ったあたりから見事な峡谷景観を見せる。下流は石城川と合し、賀来川に注ぎ大分川に入る。
峡谷部では、早瀬、深淵、甌穴が続き、両岸の断崖に四十条を超える飛瀑がかかる。両岸に大きな岩が挟まったチェックストンを見せてくれるところも。濡れて光る岩肌、かかる飛沫。幻想的で霊気さえ覚える。
峡谷の底への入り口は上流から椿、猿渡、谷ケ淵の三ヵ所。猿渡の近くには吊り橋があり、谷を見おろすこともできる。峡谷が開かれるのは毎年7月。椿と猿渡の両入り口で交互に行事が行われる。
このような深い峡谷が生まれたのは、この地域が水の浸食に弱い凝灰岩から成り立っているためだ。水源地帯に雨は多いし、V字形を見せる両岸の山斜面からの水も加えて、多量の水が谷底に集中したからだ。由布川だけでなく、隣を流れる小挾間川も地質的には同様な峡谷を持つ。
それにしても、なぜもこうまで狭く深いのか。昔の人には疑問だったろう。伝説は、旅の弘法大師が山坂の険しさを見て里人に馬を貸してくれと申し出たが「谷が深く馬は通れない」と断られ、それなら本当に馬も通れないようにと、杖で大地に線を引いたところ峡谷が生まれたと語る。また、両岸の村の土地をめぐる争いを仲裁するため谷を刻んだとも伝える。