写真/竹内康訓
由布岳(標高1583メートル)は豊後富士とも呼ばれ、大分県の代表的な名山。ただ、駿河の富士山と同じく独立峰ではあるが、コニーデ型の長く裾を引く山容ではなく、くじゅう山群や隣の鶴見岳などとともにトロイデ型の鐘状火山である。 東西二つの頂を持つ双耳峰で、由布院盆地から仰ぐと二つの峰が良く分かる。しかし、かつて豊後国府のあった大分市からだと、東の峰の頂が平に見え、傾斜はきついが富士山型で望まれる。
古く『豊後風土記』には柚富峰と記され、由布院盆地にはコウゾ類の木が多く、それで木綿を作ったのが盆地と山の名前の起源であるという。 さらに木綿山として『万葉集』に登場する。万葉には二首詠まれ「おとめらが放りの髪を木綿山雲なたなびき家のあたり見む」がその一つ。
ともあれ古代から現在まで、この山ほど多くの詩歌に歌われた山は大分県内でも少ないだろう。滝沢馬琴が若き日の源為朝を登場させる小説『椿説弓張月』の舞台にも選ばれた。それほど人々に親しまれ、大分人のお国自慢の山なのだ。
山の北には塚原の高原、南には別府・由布院を結ぶ九州横断道路が走り、ここにも草原が広がって正面登山口となる。登山者の姿は絶えない。そして、この南麓草原の浅春の名物が野焼きである。
野焼きは冬に枯れた草を焼き払い、春に立派な若芽を得て良質の草を育て、草原を維持、再生させるのが目的。同時に枯れ草に付いたダニなどの害虫をも退治する。
大分県内では久住高原や飯田高原、また由布岳近くでは十文字原などの野焼きが知られ、別府市街地から望まれる扇山の火入れは観光資源ともなっている。大分県中部草原地帯の大規模な野焼きは、まさに「火の祭り」とも言えるだろう。
美しい草原が維持されているのは、この野焼きがあればこそ。そこには人と自然の共生の在り方さえうかがえようか。