写真/竹内康訓
耶馬十渓のうち、椎屋耶馬渓の一角にあるのが岳切渓谷。椎屋というと東西の椎屋の滝など豪快な水風景や岩柱、岩壁などの景観を思い起こすが、岳切渓谷はあくまでも水が優しく、人々と戯れてくれるところである。そこでは、人は水と一体になる。
渓谷は院内谷から入った温見川の上流部。川床が耶馬渓溶結凝灰岩の一枚岩からなっており、2キロほど続く。流れるのは踝をひたすほどの浅い水。10センチから深いところでもせいぜい20、30センチの緩やかな渓流だ。川床は滑らかでジャブジャブと歩くことができる。
谷は広くなったり狭くなったりするが、頭上を覆うのは自然林中心の木々。季節に応じて色を変える。春は目に優しい新緑、夏はそれがぐっと濃くなり、秋は紅葉の赤。冬はツララなどを見ることもできよう。
だが、何といっても水と戯れるのは夏場。渓谷のキャンプ場開きの後だ。夏休みはファミリーでいっぱいになる。渓流に沿って遊歩道が付いているものの、それは無視。サンダルかゴムぞうりを突っかけて、水の中を歩く。木漏れ日の下、涼しい風を受け、夏を忘れることだろう。 ゲートから30分も行くと大飛の滝となり、目の前が切れ落ちる。落差は27メートル。上からのぞき見するのは危険。
もちろん春も秋も良い。春は小鳥のさえずりを聞き、秋は紅葉に包まれる。紅葉の色も赤、黄と多彩。落ち葉が水に舞って流れる。樹木や草花を調べる生きた教室ともなる。「豊の国名水15選」の水飲み場もある。冬の雪景色はカメラの対象。
なお、流域も行く道も違うが、近くの大谷渓谷も一枚岩。奈女川上流の8キロほどだが、こちらは川床の傾斜が急で健脚向きである。