写真/竹内康訓
国東半島の付け根、杵築市街地の前面に守江湾がある。海に面して立つ杵築城の南には八坂川、北には高山川があって、両川が運び込む土砂により広い干潟が生まれた。干潮時には東西およそ1.5キロ、南北2キロに及び、全国的にも珍しいカブトガニの生息地となっている。
カブトガニは約2億年前の中生代で恐竜の歩き回っていたジュラ紀から現在まで、その姿をほとんど変えずに生き続けている生き物。マダガスカルのシーラカンスとともに、生きている化石とまで言われている。
もともと瀬戸内海から九州北部の沿岸部の干潟に点々と生息地があったというが、高度経済成長期に埋め立てが進み、工業地帯となって干潟は大きく失われた。また、山や森から栄養分を運んで海の幸をはぐくんでいた川も、住宅地の形成などで性質を変えた。こうしてカブトガニは各地から追い出された。
守江干潟は彼らにとってすみやすい環境が残されているというわけ。それにはまた、沿岸地域の人々の努力があった。日本有数の繁殖地を守ろうと、住民は潮干狩りを楽しむだけでなく海の清掃活動を展開すれば、漁民は網にかかったカブトガニをその場でリリースし、さらには湾を取り巻く山々や台地斜面の植林にまで乗り出した。
カブトガニは成長するまで8年から10年かかる。干潟を守る運動も、息長く続けなくてはならない。さらに、彼らだけでなく、この干潟には多くの生物がいる。魚ではアオギスが知られているし、鳥類の渡りでは経由地、あるいは越冬地となっており、ダイゼン、メダイチドリ、ハマシギなどが観察されているほか、レッドデータブックに入っているコシャクシギ、アカアシシギ、ホウロクシギの記録もある。「日本の重要湿地500」にも指定された。