写真/竹内康訓
「九州の屋根」と呼ばれる「くじゅう山群」は、自然が持つ多様な顔を見せてくれる。中でも卓越するのが高原の景観。おそらく全国でも屈指の草原美と言ってよかろう。そしてその中に、ラムサール条約に登録された坊ガツル・タデ原湿原がひっそりと眠っている。
坊ガツルは山群の中部と東部の間にあり、四面を山に囲まれた標高1200―1300メートルの草原盆地。山群の登山・信仰の中心の一つである法華院温泉があり、九州の登山人たちは「心のふるさと」、さらには「聖域・霊地」とまでたたえる。
「坊」は法華院の坊があったこと、「ツル」は大分県に多い地名で水の流れを意味する。その水流は西の中岳と東の大船山から出て盆地中央で合流、北の三俣山と平治岳の間を割って鳴子川となり飯田高原に流れ下る。湿原は合流点付近から南の立中山の麓にかけて広がる。
タデ原は飯田高原から仰ぐ三俣山の麓。長者原登山口から坊ガツルに越す雨ケ池越への道筋でもある。背景に三俣山や星生山、さらに硫黄山の噴気を望むビュー・ポイントだ。流れるのは硫黄分を帯びた白水川で、やがて鳴子川と一緒になる。湿原には立派な木道がめぐらされ、背後の森林の中へと自然観察遊歩道が整備されている。坊ガツルも木道で保護されており、共に湿原への立ち入りは禁止。
植生は多彩だが、訪れる人を楽しませるのはやはり花。シラヒゲソウ、トモエソウ、サワギキョウなどなど、春から晩秋ま で絶えることはほとんどない。特に8月末から9月が見事で、図鑑と首っ引きで調べよう。
ラムサール条約は、国際的に重要な湿地に生きる動植物の保全を目的としているが、この湿原を守ってきたのは、野焼きをはじめ、古くからの人々の苦労の歴史であることを忘れまい。