写真/竹内康訓
名勝耶馬渓は「耶馬十渓」と呼ばれるように、かなり広い範囲にまたがっている。その一つ、深耶馬渓を代表するのが一目八景(中津市)。山国川の支流、山移川の流域にあって、耶馬渓式風景の核「岩・木・水」をよくマッチさせた眺めである。川岸に連なる一筋の旅館、商店街の中心部に展望台が設けられている。360度の眺めで、八景のそれぞれの方角に名札がある。海望嶺、仙人岩、嘯猿山、夫婦岩、群猿山、烏帽子岩、雄鹿長尾嶺、鳶の巣山(観音岩)がそれ。岩山の姿を見て「ああ、そうか」と納得。
耶馬渓はほぼ全域がメサ(卓状台地)である。テーブル状の溶岩台地が広がり、それを山国川とその支流が浸食し、深くえぐり込んだ。同地方で「○○の景」と呼ばれるのはほとんどが浸食崖とその岩山であり、八景も同じ。
ただ、地域によって溶岩に違いがある。大きく見て北部は古い時期の溶岩からなり、南部は新耶馬渓溶岩と呼ばれる。古い集塊岩風景の奇岩怪峰に比べ、新期溶岩は節理を見せる硬い岩で、U字形の谷間の両岸に石柱を並べ立て、川床も一枚岩が目立つ。深耶馬渓がその典型。
八景は、こうした石柱に樹木が絡まる景色。紅葉の時季がとりわけ素晴らしい。同じモミジでも紅葉、黄葉があり、その色の濃さも違う。さらにそれを常緑樹が際立たせる。
山国谷に耶馬渓という中国風の名を付けたのは頼山陽で、彼によって「天下の名勝」が知られるようになったが、山陽が歩いたのはほぼ本流域のみ。彼に深耶馬渓を見せたかった。
一目八景から歩道をたどると麗谷があり、さらに近くには若山の景、錦雲峡、台地を越えると裏耶馬渓。温泉もまた多い。地元で言う「神々が描いた名画」の彫りの深い風景を、いで湯とともに楽しんでほしい。