写真/石松健男
「奇祭」とされる祭りは各地にある。しかし、ケベス祭は奇祭の中の奇祭と言ってよい。主役・ケベスの面からして奇怪だが、まずもってケベス様とは何者だか分からないし、由緒も不明なのだ。人々は伝統に従って火の祭りを執行するだけ。
祭りは10月14日の夜、国東市国見町の櫛来社・岩倉八幡に奉納される。古くは磐倉と書いた。神が磐に降り立つことに原点を持つ昔からの信仰に基づく。
火を扱う鍛冶の神でもある宇佐八幡が近くの海岸に寄りついたとか、神功皇后が朝鮮出兵に当たり火を焚いて潔斎したとか幾つかの伝説があり、ケベスは蹴火し子のなまりとも言うが、真偽のほどは不明。とは言え、火による「祓い清め」に関係するのは確か。
祭りには氏子である10の集落の住民が毎年交代であたり、ケベス役は当番集落の成年男子から選ばれる。神官やトウバ(当場)など20数人とともに海での潔斎に始まる。
社殿では神官がケベス面に祝詞を上げ神霊を面に迎える。「ケベスどん」が面を着け、神官が「勝」の呪文をその背に書き、気合を入れるとケベスどんが神そのものとなる。
境内では山積みされた柴に火が入り、太鼓や笛、鉦の楽子による練楽が四拍子で奏でられ、ケベスや神官などの行列が境内を回る。
そのうちケベスが火をうかがうようになり、機を見て火に突進しようとする。これをトウバの若者たちが遮り、攻防が続く。赤く燃える火と白装束。つえによる力比べが祭り気分を盛り上げる。
そしてついにケベスが火を獲得する。燃え盛る火を掻きまぜてまき散らすと、今度はトウバも一緒になり、火のついた柴を持って境内を駆け巡り、参拝者にも容赦なく火の粉を浴びせる。尻をたたかれ、追われて逃げ惑う人々。ただし、火の粉がかかると無病息災とか。
見物・参拝には燃えにくい衣服と帽子が必要。国選択無形民俗文化財。