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立ち上がる噴気、街路の側溝に湯水が流れる。坂道の両側に並ぶ旅館には、噴気で煮炊きする竈(かまど)がある。別府八湯の中でも、一番の温泉情緒を感じさせる。
豊後風土記(8世紀)に記されて以来の温泉で、鎌倉時代(約700年前)、一遍上人が開いたとされる伝説を持つ。湯治場として発展し、長期に滞在できる貸し間旅館が今も残る。かっては米の収穫を終え、農閑期を迎えた農家の湯治客でにぎわった。
その湯治の中心ともなったのが“鉄輪の蒸し湯”。1694年(元禄7年)に鉄輪を訪れた貝原益軒の紀行記に「熱湯の上にかまえたる風呂あり。病者これに入りて乾浴す」とある。いわゆる石風呂で、温泉で熱せられた石室の床に、薬草として使われてきた石菖を敷き、その上に横たわる。現在は別府市営「鉄輪むし湯」となっている。
近年は、湯煙りの温泉情緒にひかれてか、来日外国人(インバウンド)が増え、外国人向けのゲストハウスに衣替えする貸し間旅館もある。新しい波を受け、古くからの湯治場がどう変わっていのだろうか。