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祖母・傾山系ブナ林

写真/竹内康訓

神秘的な生命体

 祖母・傾山系は深い樹林をまとい、岩峰・岩壁を連ねる極めて男性的な山容である。作家・深田久弥は九重山とともに「日本百名山」に選んだが、九重の女性的な優しさに比べ、彼はその対照的な姿をとらえて「緩い稜線を左右に引いた品のいい金字塔」として紹介している。

 山系は祖母山(1757メートル)から南、西へと大分・宮崎県境に長い尾根を連ね、東の端に傾山(1605メートル)を立てている。宮崎側は緩やかな斜面だが、大分側は急峻で、奥岳川の源流が鋭く切れ込み、岩峰・岩壁の下に原生林(自然林)を広げる。

 原生林は西南日本の典型的な森の姿を示す垂直分布で、暖帯林から温帯林への移行をはっきり見せてくれる。大まかに言うと、標高1000〜1200メートル辺りを境に、下部がツガ林、上部がブナ林に分かれている。冬場に訪れると、常緑のツガと落葉のブナの境が線となって山腹にくっきりと現れる。

 祖母山から南へ障子岳、古祖母山・尾平越へと連なる稜線と、東に大障子岩、前障子と延びる尾根に囲まれた馬てい形の内側を「内院」と呼んでいるが、ここが原生林と渓谷美と岩峰・岩壁の粋を集約したところ。一部に遊歩道もあるので、山系の一部は一般の人でも味わえよう。
 歩いていると、山と原生林が一体となって巨大な「生命体」を構成しているのではないかと感じられる時さえある。それは神秘な体験でもあろうか。
 祖母山はかつて添山・添利山とも書いて、ソホリノヤマと呼ばれたことがある。ソホリ、あるいはソウリは神聖な場所を示す語で、韓国の首都ソウルにも通ずる。昔の人たちは、祖母山を天に通ずるはしご、神のいる山として仰いでいたわけ。さらに明治の末に正確な地形図ができる前まで、それは九州一の高い山と信じられていたのである。

祖母山から古祖母山方面を望む。