写真/(一社)由布院温泉観光協会
秋草が風になびく10月、広々とした草原牧場で、家族連れなど老若男女が焼き肉を飽食し、由布院の大自然に向かって大声を発する。湯布院町(由布市)名物の牛喰い絶叫大会である。大声の評価に騒音測定器が使われても、絶叫は騒音ではない。大声を競うものではあっても、中身が大切。音量と同時に、発声内容のユニークさが審査の対象となる。
1976(昭和51)年に第1回大会が開かれて以来、ユニークな発言が相次いでいる。「憲法9条を守れ」から消費税、年金、さらには身近な世間の話題などなど。子供たちが「勉強するぞ」と誓えば、おばさんが「ヨン様好きよ」と金切り声をあげる。 愛の告白もある。「○○ちゃん、結婚して!」と男性がプロポーズすると、会場の片隅で彼女がはにかみながら小声で「お願いします」と応じた場面も。
その都度、共感と笑いが広がるが、大会の発想は湯布院町の地域振興運動に始まる。1970年代、畜産農家の経営難のため放牧地が売られそうになった際に立ち上がったのが盆地の町づくりグループ。全国に呼び掛けて牛のオーナーを募集する「牛一頭牧場運動」がスタート。
その後、オーナーを招待して高原でバーベキュー・パーティーを開いたのがきっかけで絶叫大会が始められた。現在、牛一頭牧場は終わっているが、参加料を払えば一般も参加できる。
牛一頭牧場だけではない。映画館のない町での「映画祭」、あるいは「音楽祭」など文化イベントをはじめ、グループはまさに『たすきがけの湯布院』(中谷健太郎氏の著書名)となってさまざまな運動を展開、絶叫の中身と同様にユニークな活動で今日の観光湯布院が築かれた。そして大山町(日田市)などとともに、「マチづくりムラおこし」運動を広げるきっかけになった。