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明礬温泉の湯の花小屋

写真/石松健男

息づく伝統技術

 別府市街地から国道500号を十文字原に向けて上り、高速道路の高い橋の下を抜けると強いにおいがしてくる。別府八湯の一つで、最も奥まった明礬温泉である。
 においは湯の花小屋からのもの。道の両側や一帯にかけて、古代住居を思わせるワラぶきの三角屋根が立ち並び、蒸気が立ち上っている。
 「湯の花」は別府名物で、家庭のお風呂に入れれば温泉気分が自宅でも味わえる。それを採取するのがこの小屋。
 明礬温泉地区では、地下わずか数センチに温泉脈が走り、地表の割れ目から硫化ガスの蒸気が噴出する。これをパイプで小屋の下へと導いてくる。その上に小石を敷き詰め、さらに青粘土を10センチ前後の厚さで張り付ける。これらの層に蒸気を通すと、粘土の中の鉄やアルミニウムと反応して表面に石綿にも似た結晶が霜柱のように成長してくる。
 これが硫酸アルミニウムや硫酸鉄、つまり「湯の花」。結晶は一日に1ミリ程度しか成長しない。40日ほどでそれを採集、精製、乾燥して製品となる。その質を高める努力はもとより、せっかくの結晶を雨で溶かさないよう屋根のこう配を急にしたり、小屋内の温度を一定に保つなどさまざまな工夫が凝らされている。長い伝統による技術は、2006(平成18)年、国の重要無形民俗文化財に指定された。
 温泉は硫黄泉・明礬泉で、湧出量も豊富。温泉場としては明治初めからとされている。しかし明礬の存在は江戸期から知られ、幕府領と久留島藩の飛び地に分けられていたこの地で、それぞれ御越明礬、久留島明礬の名で採取され、全国一の量を生産した。その技術を伝承、改良したのが今日の湯の花小屋。
 温泉旅館も多く、観光客に交じって浴衣姿の湯治客も小屋をのぞいている。卵やプリンを噴気で蒸す「地獄蒸しセイロ」も設けられ、湯の花と並ぶ名物となっている。

湯の花と並ぶ名物となっている地獄蒸しセイロで作った温泉卵。