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  • 杵築・日出

城下かれい

写真/竹内康訓

美味生む真清水

 日出町・暘谷城跡の海側石垣の下は公園として整備され、その一角に「海中に真清水湧きて魚育つ」という高浜虚子の句碑が建てられている。海中とは岸からおよそ30メートル、その水深約3メートルの海底から清水が湧き出し、名物の「城下かれい」が育つ。
 湧出地はほかにも数ヵ所あるというが、清水は海水の塩分を薄め、汽水として豊富な海藻やプランクトンを発生させ、そこに小さな藻エビなどを呼び寄せ、さらにそれを餌として肉厚で個性的なカレイが育つとされる。
 マコガレイではあるが、体形には特徴がある。丸々として頭は小さく、尾ヒレが広く角張らず、泥臭さが感じられない。刺し身にすると純白の光沢で歯触りが良い。その美味は古くから知られ、江戸時代には日出藩主・木下家から幕府への献上品とされ、武士はともかく、庶民の口にはなかなか入らなかった。
 真清水はどこから来るのか。おそらく、日出町の背後に連なる鹿鳴越の山からと思われる。連山は断層の崖となって、山田湧水などきれいな水を湧き出させ、金井田川、宮川、友安川などの小河川が別府湾へと注いでいる。その地下水が、暘谷城下の海に姿を見せるのだろう。
 調理法としてはやはり刺し身か洗いが最高か。薄くそぎ造りにし、肝を湯通ししてつぶし、薬味を添えてカボスしょうゆで。小さなものは薄味の煮付けも。今や城下かれいも一般人の口に入るようになり、旬は初夏。5月には城下かれい祭りも開かれている。
 ついでながら、暘谷とは中国の古典にある太陽の出るところで、日出の地名を生かして城名とされた。木下氏の築城によるもので、別府湾に臨み、城跡からの海景は素晴らしい。冒頭の句は、虚子が1920(大正9)年夏に来訪、城下の句会で詠んだ8句の一つ。碑は1952(昭和27)年の建立である。

暘谷城跡の石垣。