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別府市中央公民館

写真/宮地泰彦

光る繊細な感性

 別府市には近代化遺産の建物が多い。温泉観光地として成長した別府っ子の「ハイカラさん」気質が、当時の目新しい建築を受け入れ、それに加えて戦災に遭わなかったことも幸いした。
 その近代化建築の代表格の一つが中央公民館(旧・公会堂)。別府市が市制を施行したのは1924(大正13)年。それを記念して建築にかかり、1928(昭和3)年に完成した。 設計者はわが国の初期モダニズム建築の担い手とされた吉田鉄郎(1894年〜1956年)。後に東京、大阪の中央郵便局を手掛けたことで知られる。彼が設計に際して参考にしたのが、スウェーデンのストックホルム市庁舎だったと伝えられる。
 また、製図や現場監督に携わったのは市の技師だった池田三比古。彼は近年になって惜しまれつつ解体された浜脇高等温泉を後に設計した。
 外壁は落ち着いた黄土色のスクラッチ・タイル張り。東側に設けられた正面玄関は五つのアーチで構成され、重厚、かつ端正で気品に満ちている。
 内部も同様。900人を収容できる大講堂の周りのインテリアは、リズミカルなアーチを基調にした天井や窓、さらに壁面などの装飾が抽象絵画・彫刻を思わせる。星月夜をデザインしたステンドグラスなど、ロマンチックな空間であり、トイレや照明器具に至るまで、当時の繊細な感性が光っている。
 ただ1967(昭和42)年からの改修によって、2階の正面玄関への石造りの円形階段が撤去され、ファサード(建物の正面)の姿が大きく変わった。市では2014(平成26)年から、耐震工事を含めて、昔ながらの姿への復元を進め、現在は別府市公会堂となっている。
 別府市が名実ともに国際的な温泉文化都市としての道を歩むためには、こうした先人たちの残した遺産を現代に生かすことこそ大切であろう。

外壁は落ち着いた黄土色のスクラッチ・タイル張りで、正面玄関は五つのアーチで構成され、重厚、かつ端正で気品に満ちている。内部も当時の繊細な感性が光っている。